8. 茴香 (ウイキョウ)

 6月に入り梅雨入りしました。薬草園ではウイキョウの花が咲きだしました。

ウイキョウは、ソースなどの食品や胃薬にたくさん使われている薬用植物でご紹介致します。

ウイキョウは、学名をFoeniculum vulgareといい、属名に用いられているFoeniculumは小さな干草を意味します。

これは黄緑色の茎の色から「枯れ草」の名がつけられました。

種小名のvulgare は「普通の」の意です。

株全体に芳香を持つ高さ1~2 mの大型の多年草で、茎は柔らかい淡緑色、葉は互生して3~4回の羽状複葉、小葉は糸状に細かく分かれています。

6~8月頃、複散形花序を付け、小散形花序には黄色の小花をつけますが萼はありません。

秋には7~10 mmの長楕円形の2個合わさった実をつけ、乾燥すると分離しやすくセリ科特有の形をしています。

果皮の部分は、縦に5つの山の部分(肋線)と谷の部分(果谷)があり、果谷の下と各分果の接合面の下には油道をもち精油を蓄えています。(図b)

ウイキョウの果実は「茴香」、「小茴香」、「フェンネルシード」の名で流通しています。

図aには2個の果実の中にそれぞれ種子があり、他の植物のように種子単体として果皮から分離しません。

 

ウイキョウ(6月)

茴香及びその横断面図 (Tschirch)

 

フェンネルには、いくつかのタイプがあり、薬用や香辛料に用いられる「スウィートフェンネル(甘茴香)」や「スウィートローマンフェンネル」、茎の基部が球根状に膨らみ根や茎葉が食用に利用される「フローレンスフェンネル」、青銅色の葉や茎を持ちフラワーアレンジメントなどに用いられる「ブロンズフェンネル」、種子の風味が苦い「ビターフェンネル」や「ワイルドフェンネル」、「インドフェンネル」などがあります。

 

地中海沿岸から世界へ

地中海沿岸の原産とされ、古代エジプトの医学書エーベルス・パピルス(紀元前1552年)には、アニス、クミン、コリアンダー、カルムなどと共にその名がみられ、すでに栽培が行われていました。

マテリアメディカには、フェンネルの葉を食べると母乳の出がよくなる、種子も同様の効果がある、この他、腎臓病や膀胱の痛みには葉の煎じ汁を飲むとよい、ヘビに咬まれたときはワインと共に服用すればよい、通経剤になり、胸やけや吐気には冷たい水とともに飲めば和らげると記述されています。

また茎の汁や葉は、かすみ目などの目薬となるので保存しておくと便利である、などが記載され主に茎葉が用いられていました。

その後、イギリスほかヨーロッパ各地へ広まる一方、インド、中国へと伝わり、世界各地に近縁種や変種が生まれました。

 

西洋でのフェンネル

フェンネルシードは腸内のガスを排出する駆風薬、消化不良に用いられ、むくみをとり、痩身効果のあるハーブとされています。

また魚料理の生臭さをとり、味を引き立てることから魚のハーブといわれます。

ピクルスの味付け、ザワークラフト、カレー、またクッキー等の焼き菓子、リキュール類の香りつけに用いられます。

写真のイタリア、トスカーナ州で造られた調合ハーブは、コリアンダー、トウガラシ、フェンネル、シロガラシ、フェンネルリーク、ニンニクからなり、魚や肉の味付け、野菜、マリネなどの調香に利用されます。

左:調合ハーブ 中:五香粉 右:フェンネルシード

 

東洋での茴香

茴香は漢方で、附子(トリカブトの根)、乾姜、呉茱茰、山椒などと共に温補薬に分類されて、「寒証体質」の人に、体熱の産生を高めて寒を去る薬とされます。

漢方処方では安中散に配合されています。

この処方は、桂枝、延胡索、牡蛎、茴香、縮砂、甘草、良姜からなり、冷え性、神経質で胃痛や胸焼けのあるものに用いられます。

とくに神経過敏に起因する胸焼けやこれに伴う胃痛、悪心などの症状によく、その他、消化健胃薬として一般医薬品に配合がみられます。(写真)

またウイキョウの茎葉は、鎮痛や解熱、根はリウマチ関節痛や胃通に用いられます。

陶弘景は、肉を煮る時に少し入れると臭気がなくなる、味噌に粉末を入れると香ばしくなるので茴香と呼ばれると述べています。

中国で食材の臭み消しや香り付けに使われる五香粉(ゴコウフン、ウーシャンフェン)には、桂皮、丁子、花椒、大茴香、陳皮などと共に配合されています。

また、インドではカレー料理の主原料として用いられます。

茴香を含有する胃腸薬

 

小茴香と大茴香

日本薬局方では、茴香又は大茴香から得た精油をウイキョウ油としています。中国では茴香は小茴香とも呼びますが、これと対比して大茴香があります。

ダイウイキョウは、中国南部、ベトナム北部、台湾に自生するシキミ科の植物で、その果実の特異的な形から八角茴香、八角、スターアニスとも呼ばれます。茴香と同様に芳香成分のアネトールを含有し、芳香性健胃、消化、駆風、去痰薬としても利用されますが、大部分は香辛料として用いられています。

大茴香は、抗インフルエンザ薬として知られるタミフルの原料として話題になりましたが、高含量含まれるシキミ酸が利用されたものです。

日本には同属のシキミがあり似た形の実をつけるますが、こちらはアニサニンなどの有毒成分を含むので利用できません。

左:茴香  右:大茴香

茴香の薬理と成分

茴香やウイキョウ油には、胃腸機能調節、抗潰瘍、胆汁分泌促進作用が知られ、精油は性ホルモン様作用、気管支弛緩作用、気道液分泌亢進作用などが認められています。精油成分は、主成分のanetholeの他、methylchavicol (estragole)、limonene、p-anisaldehydeなどを含有します。

Anetholeはウイキョウ特有の香りと砂糖の13倍という強い甘味を持ち、鎮咳作用を有することが知られています。