2.薬草と生薬

薬のルーツの「薬草」と「生薬」

 「生薬」(しょうやく)は、その昔「きぐすり」と呼ばれていました。
生薬は、動植物の薬用とする部分、分泌物、抽出物や鉱物などを保存しやすいように乾燥や簡単な加工を施したものです。
従って天産物であるがゆえに、気候、産地、調製方法、保存方法の他、植物の系統などの影響を大きく受け、品質が一定しているものではありません。
同じ種類の生薬でも外観が随分異なっているものも少なくありません。

 生薬は用途によって切断や粉砕して用います。これらの形から、「全形生薬」、「切断生薬」、「粉末生薬」として扱われます。実例としてケイヒ(桂皮)をとりあげました。(写真) 薬用のケイヒは、中国南西部からベトナム北部に分布するクスノキ科の木本です。食品に使われるシナモンの仲間です。この幹の樹皮を剥いで乾燥したものが生薬の「桂皮」(全形生薬)です。

桂皮(下: 全形生薬、左上:切断生薬、右上:粉末生薬)

 使用する上で切断生薬(カット生薬)や粉末生薬にされます。
漢方薬は多くの場合、切断生薬が用いられますが、粉末生薬にして散剤や丸剤に利用されることもあります。
漢方薬などに使われる生薬は医薬品として扱われていますが、その中には食品材料として使用される生薬もあります。
例えばケイヒ、カンゾウ、サンショウ、チンピ、ウイキョウ、サフラン、ヨクイニン、ウコンなどは医薬品より食品として利用されることが多い生薬です。

 生薬を薬として利用する場合には、薬の公定書である日本薬局方などの試験に合格したものが用いられます。
しかし昔から生薬の品質を品定めする場合は、形や質感、匂い、味などの五感を使って選品されてきため、全形生薬をみて等級が振り分けられます。人参(朝鮮人参)を例にとると、生薬の商品価値は外見により、上質なものから、1~3等、等外、虎(傷物)の5段階に分けられ、更に約100種ほどに細かく区分されて流通するそうです。

修治と炮製

 生薬は効果を高めたり、薬効を改変させたりするために、しばしば特殊な加工が施されます。
例えば単に刻むことから、麻黄では節を取って効果を高める、当帰などは湯通しして質感をよくし保存性を高める、附子では熱を加えて毒性を落とすなど、それぞれの薬材に合った加工が施されます。
中国では、不要な部分や痛んだ部分を除くなど簡単な加工を修治(しゅうじ)といい、蒸したり加熱したり、石灰にまぶして薬効に変化を与えるような加工を炮製(ほうせい)といって区別しますが、日本ではこの両者を単に修治と呼んでいます。
ショウガを例にとると、写真の左は一般に目にする食品用のヒネショウガです。中央は単にショウガを乾燥したもので、生薬名を生姜(ショウキョウ)と呼びます。右は湯で処理(湯通し)又は蒸した後に乾燥したもので、生薬名を乾姜(カンキョウ)といいます。生姜と乾姜では、外見ばかりでなく漢方での使い方が異なります。
乾姜は生姜より温める作用が強くなり、冷え症などに適していますが、生姜のもつ健胃、鎮吐作用は劣ります。体を温める事を主眼におくのか、或いは健胃作用を重視するかにより漢方では使い分けられています。
しかし中国ではヒネショウガを生姜として、乾燥したものを乾姜として用います。
中国では日本の乾姜にあたるものはありません。このように国や地方によって生薬の加工処理の方法や呼び方が異なることも少なくありません。

 

左:ショウガ 中央:生姜 右:乾姜