7. 梅

2月に入ると木枯らしが吹く中にも日差しが日に日に強まってきたことが実感できます。立春を過ぎると「梅一輪 一輪ほどの暖かさ」の句にあるように梅の開花情報が流れ、各地の梅林では賑わいます。

今月は梅見月とも呼ばれますが今回はウメのお話です。

ウメはサクラと同じバラ科サクラ属の植物で、その原産地は中国四川省や湖北省にまたがる揚子江流域の山岳地帯と考えられています。

一方、日本にも現存していたという説もあります。しかし弥生時代の遺跡からは梅の断片がみられますが、縄文時代からは発見されておらずおそらく稲作と共に入ってきたと考えるのが自然でしょう。


 ウメはサクラのように花を観賞し、また実を梅干しや梅酒として食品に利用することはよく知られていますが、薬や染色に使われる植物としては知名度が低いように思います。

烏梅の効能

 青梅を薫蒸して乾燥させて生薬としたものを「烏梅(ウバイ;中国語でウメイ)」といい、カラスのように真っ黒な色をしていることから名前が付けられたとされています。

 また日本へは遣唐使が持ちかえったと考えられています。

 薬としての記述は「神農本草経」に中品として記載され、「気を下し、発熱による胸部煩満を除く、心をやわらげる。肢体痛、半身不随、死肌(知覚全麻痺)を治す。青黒痣(あざ)、悪肉を去る。」とある古くから知られる生薬です。

 また烏梅は、回虫の駆除、慢性の咳、のどの渇き、慢性の下痢、悪心などに利用され、いろいろな疼痛に用いられます。

 烏梅を使った代表的な漢方処方に烏梅丸(傷寒論)があります。その構成生薬は、烏梅細辛乾姜黄連当帰、炮附子、炒山椒桂枝人参黄柏からなるもので主に虫下しに利用されてきました。

 中国ではウメを起源とる生薬は烏梅以外に、根を梅根、枝を梅梗、葉を梅葉、蕾を白梅花、未熟な果実の塩漬けを白梅、種子を梅核仁と称して利用されてきました。

紅花染めに使われる烏梅

 奈良県の月ケ瀬地区では、紅花染めや紅を得るためにウメが栽培され烏梅が生産されてきました。紅花染めでは、紅花から調整した紅餅をアルカリ性の灰汁を用いて紅色素を抽出して布を付けこみ水に曝します。次に紅餅入りの灰汁に烏梅の溶液を加えて中和させると紅色素は繊維に染着することから紅花染めには欠かせないものでした。

 烏梅

梅肉エキスの効用

 梅肉エキスは、江戸時代の医師衣関順庵(きぬどめじゅんあん)が著わした「諸国古伝書秘方」(1817年)に当時の製法が記されていて、赤痢や腸チフス、食中毒などの伝染病、下痢、便秘、消化不良などに用いられ、日本で開発された民間薬の一つです。

 1999年に農林水産省食品総合研究所の研究員が、毛細血管の血流を改善する成分としてムメフラールを発表しました。

 梅肉のしぼり汁中にはクエン酸が豊富に含まれていて強い酸性を示します。過熱し濃縮していく過程でブドウ糖の一部が酸の影響で分解して5-ヒドロキシメチルフルフラールという成分に変化します。更にこの成分とクエン酸が結合してムメフラールが生成してくることが分かりました。

 梅肉エキスは、メフラールを含むことから毛細血管の血流を改善し、動脈硬化や高血圧を予防する効果が期待されます。まさに温故知新を地でいった発見ではないでしょうか。

 ウメの話題は尽きませんが、また別の機会にふれてみましょう。